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家庭科 NEWS

「畳縁教材で学ぶエシカルファッション」コロナ禍の家庭科被服授業

長引くコロナ禍で、授業のやり方や生徒の生活もかなり変わってしまったかと思います。そんな中、除菌のために必要不可欠となったティッシュケースを畳縁という伝統素材で製作する授業を実践した愛知県の金城学院高校、池内先生のレポートをお届けします。エシカルファッション、和の伝統文化、ものづくりの楽しさを体験した生徒の感想も必読です。

【使用にあたって】

本校では、家庭基礎2単位を1年次に学習しています。

この教材は、元々「畳縁でつくる ぺたんこペンケース」を作るものですが、今回、「畳縁を使った箱なしティッシュケース」を製作しました。
その理由は3つあります。
まず1つ目は、コロナ禍において、生徒たちは毎日終礼時に机をアルコール除菌します。その際、ティッシュが毎日必要になるので、机の横につるしておけば手軽に拭けるなと思ったからです。せっかく作るなら、実用的なものにしたいという思いもありました。
2つ目は、家庭基礎2単位で時間が限られているので、2時間×2回でミシンを使って製作ができるものがよいと思ったからです。ティッシュケースであれば、2時間×1回でできてしまう生徒もいます。
3つ目は、本校は、伝統的に家庭科で和服の構成を学び、各自が浴衣を持参して、着付けを行っています。9月に行われる体育祭では、高校1年生全員が参加する阿波踊りで、女踊りの生徒は自分で浴衣を着付けして踊ります。こういった流れの中で、エシカルファッションを学んだ生徒たちにおいて、日本の文化の一つである畳の畳縁を使って何か作ることができたらいいなと思ったからです。

【指導計画例】

◎前時までの指導

・衣服の構成…立体構成と平面構成、洋服と和服の特徴、浴衣の着付け

・衣服の成り立ち…衣服の素材、衣服素材の性能と着心地

・衣服の手入れ…衣服の表示、洗濯、仕上げ・保管、衣服の補修

・衣服と消費者…既製服の製造、流通・販売、エシカルファッション、着なくなった衣服の処分、アップサイクル

◎本時の指導(指導時間の目安:4時間)

学習活動・内容 指導上の留意点
・畳縁を裁断する。
・本体部分を縫う。
①5枚の畳縁の縫い合わせ、つなぎ合わせる。
・ミシンや裁ちばさみの取り扱いに注意する。
・中表に合わせ、まち針で留める。しつけをしてからミシン縫いをさせる。
②両端を縫う ・次回、アレンジするための材料(刺しゅう糸やレース、ボタンなど)を持ってくるよう指示をする。
・取っ手をつける。
・ティッシュの取り出し口を重ね、両端を縫う。
・表に返して完成。
・取っ手が左右対称で、ひねらないように注意を促す。
・ティッシュの取り出し口は、真ん中で交差するように重ねる。
・刺しゅうやレース、ボタンなどを使って、オリジナルな作品に仕上げる。 ・自分ができることを工夫してアレンジさせる。

【実習例】

【評価のポイント】

①5枚の畳縁の縫い合わせ
・直線縫いがきれいか

②両端の縫い方(ティッシュの取り出し口)
・折り幅が適切か
・端縫いがきれいか

③取っ手の付け方
・取っ手は左右対称になっているか

④両端の縫い方(ティッシュケースの上部と下部)
・直線縫いがきれいか

⑤全体の仕上がり
・全体の袋の形はきれいか

手先の器用な生徒は、2時間×1回=2時間で完成しました。そのような生徒には、刺しゅうやレース、ボタンなどを使って自由にアレンジするように伝えると、それぞれ上手に工夫することができました。工夫点は、出来ばえとともに作品評価に加点しました。

【生徒の感想】

●今回の授業で私は初めて“畳縁”という言葉を耳にしました。それまで、私の中の畳のイメージは、すでに部屋に敷かれているもので、畳が何からできているのか、どのようにして作られているのかは、想像したこともありませんでした。実際に畳縁に触れてみると、畳に使われているときの印象と違い、手触りも良く、柄もたくさんあって、一枚の畳縁から個性あふれる作品を作ることができるのだと感じました。この授業を通して気付いたことは、自分が普段何気なく使う商品やサービスの裏側にある背景や、作っている人、場所に関心を持つ機会が少ない、ということです。私たち一人ひとりが「エシカル消費」を心がけることで、環境・人・社会・地域に配慮した行動をとることができるようになり、明日を今日より少しだけ良い日にすることができます。私自身も、まずは身近な範囲で、未来を良くする「思いやり」のある消費行動に取り組んでいきたいです。
●今回のティッシュケース作りはただ単に製作の達成感を味わうということだけでなく、日本の伝統文化について知り、考えるきっかけとなりました。私は畳縁のことをあまり知らなかったので、実習前の授業や実習を通して畳縁がしっかりとした素材でできていて、柄の種類が豊富であるといった特徴を持つとても魅力的なものであることが分かりました。また、ポップな柄の畳縁にボタンや花の飾りをつけてアレンジを加えたことで、自分にとって唯一無二の大切な作品になりました。
●畳縁の生地は丈夫で軽く、布で作った場合と比べると、布端の始末がいらず作りやすかったです。今回の授業で畳縁には様々な色・柄があることを知り、日本の文化を身近に感じることができました。
●私はこのティッシュケースを作る際にまず、生地をつなげるところから始まることに驚きました。今まで気にも留めなかった畳縁ですが、作っていくうちに手触りの良さと硬さを知ることができました。この硬さのおかげで、普段アイロンがいるところが指だけで跡がつくため、縫いしろを割るのがとても簡単でした。日本に昔からある畳の縁をこうして別の形で利用し、新しいものに生まれ変わらせるということは、伝統の存続などにつながることでもあるのだと気付きました。
●畳縁を使ってティッシュケースを作ることで、全く用途の違う物を、別の実用的な物に作り変えることができることを知り、家の中にある使わなくなった物を捨ててしまうのではなく、他の物にリメイクできるのではないかと考えるようになりました。私だけのオリジナルの作品を作ることはとても楽しかったので、これからも時間を見つけて様々な物を作りたいです。
●私の家には、和室がないので畳に親しみがなかったのですが、今回畳縁を使ったことで、畳に親近感がわきました。日本独自の文化である畳や畳縁を日用品として、日々使えるのは嬉しく感じました。
●畳縁を用いて、身近なものであるティッシュケースを作ることで、日本の伝統である畳にさらに親しみを感じました。100円ショップなどで買ったもので飾りつけができるので、すごく簡単にできました。ティッシュケース作りはとても楽しかったです!!取っ手があることで、学校での机の横にかけられます。コロナ禍である今、アルコール消毒の際にもティッシュを取り出しやすいので、取っ手をつけるのがポイントです。
●何の刺しゅうをしようかと考えるのが楽しかったです。

【学習上の効果】

じっくり時間をかけて取り組んだものではありませんが、このような生徒の感想から、①エシカルファッション(エシカル消費)について体験的に学ぶことができ、持続可能な衣生活の実現を探ることができる点、②刺しゅうやレース、ボタンなどを付けて、自由にアレンジすることでオリジナルな作品ができ、工夫する力、表現する力が身に付く点、など製作を通して学ぶことができたのではないかと感じています。

(了)


【教材のご案内】PR

畳縁でつくる ぺたんこペンケースぷらす

730円(税込み) 教育図書オンラインショップで購入できます

【セット内容】
畳縁本体が1.5メートル、ボタン1つ、作り方のレシピと、畳縁についての読み物が付属します。

 

 

池内 孝枝

金城学院中学校・高等学校 家庭科教諭

修士課程(人間生活学研究科消費者科学専攻)修了後、2006年より山梨英和中学校・高等学校にて教諭(家庭科)。
2010年より現職。