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最近の家庭科教育の話題の中心といえば「18歳成人」と「金融教育」です。教育界のみならず一般のメディアでもしばしば取り上げられるようになりました。
とくに金融教育は、老後2000万円問題や年金制度の持続可能性など社会的な関心が高いことから、高等学校の家庭科でどのような内容が取り上げられるのか世間の注目を集めているようです。しかし一方で、家庭科では以前より家計にかかわる基礎的な知識は教えています。本年度より実施された新学習指導要領では「生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について、ライフステージや社会保障制度などと関連付けて考察すること」と示されていますが、‟これまでやってきた授業をどう変えたらよいのか?”と戸惑っている家庭科の先生もいるのではないでしょうか。
国が金融教育を推し進めようとする背景には大きな経済政策があり、それは現政権が「新しい資本主義」の一つの柱として示す「貯蓄から投資へ」というスローガンにも表れています。つまり銀行に眠っている個人資産を投資へと促すことで経済活動を活発化させ、かつ資産所得を増やすことで成長の果実を広く分配していく、という政府の目論見があります。しかしながらそのような政策意図とは別に、学校教育で「投資の勉強をさせる」ということに違和感を持つ現場の声も理解できます。
「投資の勉強といっても、どこまで学校で教えるべきか?」「うまく教えられるかどうか不安…」「18歳成人が始まった今、詐欺や悪質商法に引っかからないか心配…」「楽して稼げるというような誤った認識を持たせたくない」「そもそも生徒が関心を持ってくれるかどうか」などなど不安や悩みが多いかと思います。
本稿では家庭科で求められる金融教育とはどのようなものか、生徒が関心を持つ授業はどうすればできるか、弊社から発刊される金融教育教材「おかねドリル」の内容を紹介しながら考えていきます。
目次
弊社では2022年の4月に高校生を対象に、家庭科教育に関するアンケートを実施しました。(回答者数484/8校、男女比43:48)その一部を紹介しましょう。
お金について知りたい項目はどれか?というアンケートでは「将来いくら必要?お金に関する人生設計」がもっとも多く、次いで「賢く貯める、家計管理の方法」が続きます。一方で株式、投資信託、仮想通貨、ネット銀行などより具体的に投資について触れた項目はそれほど高くありません。
思えば今の高校生が生まれたのは平成16年から18年ころ。平成不況と呼ばれる長い不景気の時代の空気を吸ってきた世代で、総じて生活防衛意識が高いように思われます。高校生のお金や資産に関する意識としては「将来に備えてしっかりお金を管理したい、株式や投資信託にも興味はあるがリスクもあるので慎重に考えたい」といったところでしょうか。
では、そのような生徒の関心をつかめる家庭科の金融教育とはどのようなものでしょうか?
こちらはこの7月下旬に発売される高等学校の教材として発売される「おかねドリル」の冒頭のページから抜粋しました。
おかねドリルは2年前に18歳成人へ向けて、家庭科の消費者教育教材として発刊した「おとなドリル」の姉妹編です。
消費者教育の義務化においても現在の金融教育と同じような状況が家庭科で起こったことは記憶に新しいところだと思います。「おとなドリル」は、18歳になると何ができ何ができないのか、契約とは何か、気を付けたい悪質商法などについて、マンガやイラストを豊富に用い楽しく学習できる家庭科の副教材として20万人以上の高校生に使われたヒット教材です。
その第2弾として発刊される「おかねドリル」はおとなドリルの仕様やキャラクターを踏襲しつつ、「金融教育」をテーマとして編集されています。
おかねドリルはその名の通り、ドリル形式で構成されています。
こちらは生徒は回答を書き込むワークページ。マンガを導入にイラストで描かれた問題に答えていきます。
ページをめくると、詳しい解説ページという構成になっています。
先生は「問い」と「解説」を繰り返すことで、分かりやすくスムースな授業展開ができます。
目次は1の家計管理から始まり、2では金融商品のリスクとリターンについて、3はライフプランニング、4は保険、5は詐欺や悪質商法への啓発、6の18歳成人という全24ページの構成になっています。より詳しい内容はホームページよりご確認ください。
家庭科に限らず、今教育で重視されているのは生徒の主体性、つまり学びたいという意欲です。
金融教育が義務化されたからといって、無味乾燥な知識の習得だけを型通りに行っても生徒は付いてこれないでしょう。
そもそも高校生にとって、自分のこれからの人生と金融や投資を結び付け主体的に考えることはなかなか難しいと思われます。しかし冒頭で示した通り、将来必要となるお金についてしっかり備えておきたいという意欲と関心はあるのです。
家庭科の先生の役割は、その意欲と関心をすくいあげ、生徒がお金について自分事として捉え、必要な知識を自ら学びたくなるよう導くことにあるのではないでしょうか。
高校の家庭科の授業が、お金について学ぶ最後の教育機会となる生徒も多いはずです。
お金に振り回されたり縛られたりすることなく、お金とじょうずに付き合い幸せな人生を送るための一助に、家庭科教育がなることを願います。
〈了〉
文/教育図書編集部