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家庭科 NEWS

「家庭科の授業で身につけたいマナーとは?」教材監修者に聞きました

多様な人々が生きる現代社会において、マナーはみんなが暮らしやすい社会を作るためのスキルと言えます。外出や人との接触を控えた数年間を経て、これから学生たちは外の世界を知っていきます。マナーを学ぶ機会が減っている今、家庭科の授業で伝えたいこととはなんでしょうか。

教育図書では、新しいマナー教材を2つ発売しました。イラストを中心にクイズ形式で学ぶ「マナードリル」と、等身大の出演者と一緒にマナーを考える映像教材「マナー基礎の基礎」です。
発売を記念し、弊社ベストセラー「楽しく学べるマナーの基本」をはじめ、今回のドリルや映像教材の監修者である日本マナー・プロトコール協会の明石伸子理事長が、教材に込めた思いと今こそ伝えたいマナーについて語ってくださいました。

「年代を問わずマナーに自信が持てない人は多いようです。昔なら家庭で自然に学んできたことも、今は学校教育に期待される時代になりました。
私は大学でもマナーの講義をしていますが、授業は常に定員オーバーの人気ぶりです。学生たちはマナーがわからないという自覚があり、人前でのふるまいに自信が持てません。
「自信」とはまさに〝自分を信じる〟こと。他人がどうこうではなく、自分自身が「人前でもきちんとできる」という自信を持てれば、必要な場面で迷ったり、おどおどしたりせずに対応できるのです。

今回の2つの教材は、今の高校生ができるだけ楽しくマナーの本質について学べるよう、高校生の視点でわかりにくいことを中心に構成しました。例えば『メイクって身だしなみじゃないの?』など、一般的な基準はあるとはいえ、改めて考えると定義は難しく、学校によっても校則は違います。だからこそ、ぜひ学校で話し合ってみてください」

教育図書高校家庭科マナー
  「マナードリル」           「マナー基礎の基礎」暮らしの中の身近なマナー編楽しい食事のマナー編

「これらの教材は形式を教えるというよりも、目の前の課題に対してどうしたらいいのだろうかと立ち止まり、みんなで一緒に考えるためのものです。正解・不正解や『〜しなければいけない』になってしまうと、自分で考える経験は積めません。基準は知っておきたいものですが、最終的には自分が状況を判断し、良いと思って行動したことが正解です。一人一人にそういう習慣がつけば、学校全体のマナーも向上し、誰もが爽やかな気持ちになれるのではないでしょうか。マナーは社会性のバロメーターです。

日常の目線で気づきを得るきっかけには「映像教材」を、楽しく定着を図るなら「ドリル」を、というように教材を使い分けていただけたらと思います」

        • 気づきを得るということ

「最近は人の家に行く機会が昔ほどないので、学生たちは自分の家庭しか知りません。別の家庭に行ってみると、初めて自分の家とは随分違うことに気づきます。この違いを知るということが大事で、食事のいただき方、家族間の言葉遣い、雰囲気などを通して、食事のあり方が見えてきます。

箸を使って食事をする国はいくつかありますが、日本のように自分専用の箸や茶碗があるのは稀なことです。例えば男性には大きな茶碗を、子どもは持ちやすく軽い箸を、というように、その人のことを思い用意する。これは日本人の細やかな気づかいの表れです。その根底にあるのは愛情ですね。季節や食材に合った器を選んで盛り付けることもそうですが、日本には季節感を大切にし、食卓を豊かにしようという心配りがたくさん見て取れます」

教育図書マナードリル和食
「マナードリル」P02 マナーって、なぜあるの?(和食)

「私たちの生活の中に根付く伝統は、歴史や宗教と深い結びつきがあります。マナーを学ぶとは、自分を構成する精神性はどこから来ているのかを考えることでもあります。過去から続く一つの大きな流れの中に自分は存在し、その命は次へ繋げられるものであると知ることによって、自分や他人を傷つけない心を育んでほしいと思います。

マナーは堅苦しいと思われがちですが、本来は人と良い関係を築くための気持ちのあり方を示した『先人たちの知恵』です。
食事にしても、極論を言えば1人で食べるならどうやって食べてもよいでしょう。しかし、大切な会食の時にはマナーが必要です。ふるまいひとつで人の印象は変わります。家族だけの食卓から他者との会食へと状況が変わっていった時、どのようなふるまいをするかはその人の社会性そのものです。

そして見落としがちですが、『食事を楽しむ』ことも大切なマナーです。細かい作法ばかりにとらわれて目の前にいる人との時間を大切にしないのは本末転倒です」

高校家庭科マナー基礎の基礎
「マナー基礎の基礎 楽しく学ぶ食事のマナー編」(洋食レストランでのマナー)サンプル動画

        • マナーは時代のコンセンサス

「今は国内でも随分国際化が進みました。空港内にはイスラム教徒のための礼拝堂ができ、ハラル料理を提供するレストランも増えました。最近では、外国の方も箸を使って和食を楽しんでいます。むしろ外国の方の方が日本人より日本文化に関心が高いかもしれませんね(笑)

映像教材にも登場した豆知識ですが、レストランでは基本的に椅子の左側から出入りします。これはマナーが成立した当時、貴族は腰にサーベルをつけて食事の席に着いていたことから生まれたルールです。
今はサーベルなんてしないので、どちらから出入りしてもいいじゃないかと思うかもしれません。とはいえ、このルールがあることで隣同士がぶつかることなくスムーズに椅子に腰掛けることができるのです。

このようにマナーには理由があり、多くの人々の同意を得て、納得のいく行為として残ってきた背景があります。しきたりやルールは時代や状況によって変わってゆくこともありますが、だからこそ成立背景を知っていると判断の基準になるのではないでしょうか」

        • 新しい対人関係を生きる若者たちへ

「私たちおとなは、無意識にコロナ以前の振る舞いを基準に考えます。しかし、高校生は自分の価値観が形成される人生の重要な時期をコロナと共存してきました。
例えば、人と積極的に会話をしたり相手に近づいたりする行為に対して、今はネガティブな捉え方もあります。人と人はどうコミュニケーションをとるのが良いのか、悩ましいところです。

オンライン授業などの『システム』は上手に利用すべきですが、それとは別に対面によって得られることもたくさんあるでしょう。そういった使い分けを含め、対応が分かれる部分をみんなで考えてほしいと思うのです」

高校生家庭科マナー

「コロナが落ち着いたこともあり、これからは一気に人と人が関わる場面が増えそうです。
教材には学生生活だけではなく、季節行事や冠婚葬祭も含めて人生のさまざまなシーンが紹介されています。人生の節目や大切な時に、知識としてマナーを知っているかいないかでは随分対応が変わります。知識は財産です。

今は興味がなくても、自分がおとなになった時や今までとは違った人間関係を築かなくてはならなくなった時、そして自分が子どもをもった時など、こんなふうにしようか、してあげようかと思うかもしれません。
高校生の皆さんの人生において、将来のいろいろなシーンでこれらの教材が役に立てたら嬉しいですね」

 

●「マナードリル」 内容:和食 / 洋食 / 結婚式と葬儀 / 面接 / 公共の場
●「マナー基礎の基礎  暮らしの中の身近なマナー編 」 内容:身だしなみと振る舞い / 面接 / 電車で / 外出先で / 書き方
●「マナー基礎の基礎  楽しい食事のマナー編」   内容:フランス料理 / 日本料理 / 会席料理 / 中国料理 / ビュッフェスタイルの食事

 

明石 伸子NPO法人日本マナー・プロトコール協会理事長

日本航空客室乗務員、企業の役員秘書などを経てCS(顧客満足度向上)コンサルタントとして1996年会社を設立し独立。2003年、NPO 法人日本マナー・プロトコール協会を設立し、マナーやプロトコール(外交儀礼)普及のために「マナー・プロトコール検定」を実施している。その他、NHK経営委員、学習院女子大学非常勤講師なども兼任。

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