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中学校 技術・家庭科 NEWS

中学校技術分野で展開されるプログラミング教育: 小学校から高等学校までのカリキュラム

21世紀のスキルとも呼ばれるプログラミング。その学習は小学校から始まり、中学校の技術分野ではより具体的な内容へと進み、高等学校での深化につながる形で展開されています。本記事では、中学校の技術分野におけるプログラミング教育の現状と特徴、その後の学習へのつながりについて詳細に解説します。未来を担う子どもたちにとって必要不可欠なスキルをどのように身につけさせるか?大学でプログラミング教育について研究をされているお二人の先生に聞きました。

兼宗 進
大阪電気通信大学 工学部 電子機械工学科 教授、副学長

島袋 舞子
大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 特任講師


技術702・703技術分野教科書


小学校から高等学校で扱われるプログラミング教育

2020年度から始まった教育課程では、小学校、中学校、高等学校の各段階でプログラミングが扱われています。小学校ではプログラミングを体験し、中学校で双方向性のあるコンテンツのプログラミングと計測・制御のプログラミングを扱います。そして、それらを受けて高等学校では情報Ⅰと情報Ⅱにおいて情報とプログラミングを学びます。

表1 小学校から高等学校までの情報教育の実施段階

小学校でのプログラミング教育

小学校では、プログラミングを体験し、日常触れる身近なソフトウェアがプログラムによって作られていることを理解し、教科の学習で活用します。学習指導要領では、総合的な学習の時間での体験、5年生の算数(正多角形)、6年生の理科(電気とエネルギー)の学習が例示されており、他の学年や教科での利用が求められています。

プログラミングの理解については、行わせたい動作を考えた後で、その動作をコンピュータに行わせるための反復や分岐などの指示の順序を検討し、それらをブロックや文字を組み合わせたプログラミングにより表現し、コンピュータに伝える活動を行います。

小学校では、タブレットを利用したプログラミングが多く、文字入力を行わずに画面にブロックを配置するScratchなどのビジュアル型プログラミング言語などが利用されています。図1 にブロックプログラミングの画面例を示します。

図1

小学校では各教科の学習にプログラミングを活用することが期待されています。画面でキャラクターなどに動きをつけられることから、図画工作における表現を豊かにしたり、国語において物語を視覚的に補足したりするなどの活動を行う授業などが考えられます。図2に理科学習での利用例を示します。この学習では、小型マイコンボードのmicro:bitの外部端子を利用して身近な物質の導電性を計測しています。


図2

中学校でのプログラミング教育

中学校では、技術・家庭科の技術分野の「(D)情報の技術」の中で、従来からの計測・制御のプログラミングに加え、双方向性のあるコンテンツのプログラミングが扱われています。これはネットワーク等を介して生徒同士で文字や画像などを交換するプログラムです。現在のスマートフォンのアプリなどでも、人間が対話的に操作する形の、ネットワークを利用したプログラムが利用されています。

筆者が開発しているドリトル言語の利用例として、図3にライントレースを行う計測・制御教材の作品例を、図4に文字のメッセージを交換する双方向性のあるコンテンツの作品例を示します。メッセージを入力して送信ボタンを押すと、同級生の画面にそのメッセージが表示されます。

図3 計測・制御教材の作品例

図4 メッセージを交換する作品例

双方向性のあるコンテンツのプログラミング

双方向性のあるコンテンツの例として、ドリトルで記述したプログラムの例を紹介します。ドリトルのネットワーク機能を使うときは、図5の編集画面からサーバーを起動します。

図5 ドリトルの編集画面

編集画面の右下に図6(右)のような「server」というチェック欄がありますので、それをマウスでクリックすると、図6(左)のようにserverの下に「10.0.1.2」のような数字が表示されます。これはサーバーを起動したコンピュータのIPアドレスと呼ばれる番号で、1台ずつ違います。この番号は、どのコンピュータと通信するかを指定するために使用します。

図6 サーバーの起動

図7は描いた図形を送信するプログラム例と実行画面です。プログラムの1行目ではサーバーに接続しています。”10.0.1.2″ の部分は、サーバーを起動したときに表示された番号(IPアドレス)を指定してください。2行目では「かめた」という名前のタートル(カメのオブジェクト)を作り、3行目でカメを移動させて三角形を描いています。4行目では三角形をタートルから独立させて色を塗り、「三角」という名前を付けています。5行目ではサーバーに「tri」という名前で三角という図形を送信しています。

図8は図形を受信するプログラム例と実行画面です。送信するプログラムを実行したドリトルとは別のドリトルで実行してください(別のコンピュータで起動したドリトルで実行するとわかりやすいです。パソコンが1台しかない場合は1台で2つのドリトルを起動して実行しても構いません)。プログラムの1行目ではサーバーに接続しています。”10.0.1.2″ の部分には、サーバーを起動したドリトルで表示されたIPアドレスを指定してください。2行目ではサーバーに置かれた三角形の図形オブジェクトを受信して表示しています。

1、2行目だけを実行すると、画面に三角形が1個表示されます。3行目を追加して実行すると三角形の図形オブジェクトをもうひとつ受信しますが、前に受信したオブジェクトと重なって1個に見えてしまうため、4行目で2個目のオブジェクトの位置を上に移動させています。

これらの例のように、ドリトルを使うことで、短い簡潔なプログラムでコンテンツをやり取りするプログラムを書くことがきます。ここでは説明用のために「1台のコンピュータからもう1台のコンピュータに図形データを転送する」形の一方向のプログラムを紹介しました。実際の授業では、これらのプログラムを2台のコンピュータが相互に情報を送り合うように拡張することで、双方向にコンテンツをやり取りするプログラムに改良する学習が考えられます。

図7 描いた図形を送信するプログラム例(上)と実行画面(下)

図8 図形を受信するプログラム例(上)と実行画面(下)

高等学校への接続に向けて

中学校でプログラミングを学んだ生徒は、高等学校では必履修科目である「情報Ⅰ」と選択科目である「情報Ⅱ」の中で、情報の発展的な内容とプログラミングについて学習します。

情報Ⅰでは中学校までの学習内容を踏まえた上で、基本的なアルゴリズムとネットワーク、シミュレーションなどの情報科学の基礎を学びます。情報Ⅱではデータ分析を扱うデータサイエンス、サーバーと端末が連携して動作する情報システムなど、実社会で応用できる内容を含めたプログラミングを学びます。

新しい教育課程で学ぶ内容は、大学入試共通テストをはじめとする大学入試への情報科目の出題も計画されています。小学校での体験を受けて中学校でプログラミングを学び、その成果は高等学校や大学入試に引き継がれていきます。このような新しい流れの中で、中学校でのプログラミングを含む情報領域の学習には期待が寄せられています。

参考資料・サイト

・大阪電気通信大学 兼宗研究室 ドリルの王様情報サイト

https://es-drill.eplang.jp/

・プログラミング言語「ドリトル(dolittle)」情報ページ

https://dolittle.eplang.jp/

※言語の最新版のダウンロードも可能です。

 

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