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中学校 技術・家庭科 NEWS

地域とのつながりが未来を切り開く ―中学校家庭科で学ぶ高齢者との関わりの重要性―

日本の社会環境は急速に変化しており、その中で子どもたちが育つ環境もまた激変しています。一方、少子高齢化や人口減少という問題が続く中、中学生が地域の高齢者とどのように関わるべきなのでしょうか。長年、福祉の課題に取り組み家庭科の教育現場にも携わる野尻先生の論考をお届けします。

 

 

野尻 紀恵(のじり きえ)日本福祉大学 社会福祉学部 教授
神戸大学教育学部を卒業後、神戸市内の高等学校教員として勤務。その後、社会福祉士を取得し、茨木市スクールソーシャルワーカー。関西学院大学大学院総合政策研究科修了、修士(総合政策)、大阪府立大学大学院人間社会学研究科単位取得満期退学、博士(社会福祉学)。


家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)


子ども達が育ってきた環境

少子化や核家族化により近隣のつながりが希薄な上、昨今の世界情勢は変動が激しく、家庭生活にもゆがみが生じ、生活環境が不安定になっています。このような社会状況では、人々は穏やかな家庭生活を営むことが難しい場合も多く、余裕の少ない生活を送っていると考えられます。一方、世間には親や子どもたち、子育てに対して、干渉的・批判的な目があふれています。親たちはその視線を敏感に感じ、周りの目を気にしながら子育てをしています。現代社会は、子どもを生み育てにくい環境となっているのです。

また、家族形態の激変により、特に乳幼児を持つ親が孤立する状況が顕著にみられます。孤立しながら子育てに向き合う状況の中で、虐待に至るケースもみられます。子どもをめぐる問題が複雑化・多様化しているのです。子どもの発達や成長にまつわる具体的なニーズも顕在化しています。子どもに対しての大人の不適切な養育・関わり、第三者による児童への暴力行為、子どもの遊び場の不足なども報告されています。このように地域における子どもの安心・安全が揺らいでいます。これでは、子どもが育つ環境に対して、不安や孤立感、閉塞感が深まるばかりです。

教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より

現代の子ども達が生きていく未来の社会

少子高齢・人口減少社会という日本が抱えている大きな課題は、経済・社会の存続の危機に直結しています。現代の子ども達が今後生きていく未来の社会は、この危機を乗り越えるために、地域のつながりを再構築し、地域社会の持続可能性を高めていくことが必要なのです。地域力を高めるに当たっては、地域全体が直面する様々な課題を、改めて直視する必要があります。

様々な課題に直面している地域を元気にしていく取り組みと、誰もが安心して共に生きていける地域を創り出す取り組みは、これからの時代を生きていく現代の子ども達の生活を持続可能にしていくために不可欠です。また、それによって、つながりに満ちあふれた、生き生きとした地域になっていくでしょう。しかし、前述したように、子ども達が育つ環境には不安や孤立感、閉塞感があり、地域とのつながりを体験したり、実感したりした経験のある子どもは少ないのが現状です。

だからこそ、新学習指導要領 技術・家庭科 家庭分野「A(3)家族・家庭や地域との関わり」の内容を通して、子ども達が体験的に学ぶことに重要な意義があるのです。すなわち、現代において中学生が地域と関わることは、彼ら自身の未来の生活のためにも、また、地域の持続可能性を高めるためにも必要なのです。

中学生が地域の高齢者と関わることの必要性

2018年版「高齢社会白書」によれば、日本の総人口は、2017年10月1日現在、1億2671万人となっています。65歳以上の人口は、3515万人で、高齢化率は27.7%となりました。

2017年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位推計結果によれば、日本の総人口は、長期の人口減少過程に入っており、2029年に人口1億2000万人を下回り、2053年には1億人を割って9924万人となり、2065年には8808万人になると推計されています。

65歳以上の高齢者は2015年に3387万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3677万人に達すると言われています。総人口が減少する中、2036年には高齢化率33.3%(3人に1人が高齢者)となります。2065年には高齢化率は38.4%に達し、国民の約2.6人に1人が65歳以上の高齢者となる社会がやってくるのです。

地域全体が直面する様々な課題の中でも、この人口減少・高齢化率の上昇は最大の課題です。そのため、現代における中学生が高齢者と関わり、地域の一員として高齢者に手を差し伸べる存在になることには大きな意義があります。

これからは、高齢者擬似体験などを通じて高齢者の心身の老化について正しく理解・把握し、中学生でも支える側になれることを実感することが、未来を生きる彼らにとってとても重要な授業になると言えます。

教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より

中学生の活動例から考える「高齢者との関わり」のポイント

ある中学校で、高齢者宅のゴミ出しのボランティアをしています。その中学校では、登校時に中学生が決まったお宅に立ち寄りゴミ出しをお手伝いします。「高齢者は重いゴミを持つのが大変だろうし、ゴミの分別も分からないかもしれない」、そう話し合って始めたボランティア活動です。地域の高齢者の皆さんは、中学生の優しさに触れ、とても喜んでおられました。まさに、中学生でもできる高齢者を支える取り組みです。

ある時男子生徒が呟きました。「高齢者の皆さんって、ゴミが少ないね」と。そこで、彼らは高齢者とコミュニケーションを取って、ゴミの確認をしました。結果は、高齢者の皆さんが、無駄な買い物をしない、自宅にあるもので代用する、ゴミにしないで使い切る、というような工夫をされていることが分かったのです。中学生は「高齢者の皆さんってすごい!物知りだし、生活の工夫をたくさん教えてくれる!」と、大喜びでした。

このように、高齢者をただ支える側になるだけではなく、長い人生を生きてきた先輩として敬い、その生活の知恵から学ぶ姿勢が重要だと考えます。そんな体験は、中学生の心を刺激し、共に生きるという真の意味を理解できるきっかけになるはずです。


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