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中学校 技術・家庭科 NEWS

新しい価値をつくり 問題を解決する技術分野の授業を実現しよう

※本稿は、てくテク第9号(令和4年6月発行)の記事を加筆・修正したものです。


渡邊 茂一(わたなべ しげかず)
国立教育政策研究所
教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官
文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官
修学支援/教材課情報教育振興室 教科調査官

はじめに

2022年4月初旬、短文投稿式のSNSサービスで、教育図書の技術・家庭 技術分野(以下、技術分野)の教科書が、良い意味で大きな話題となりました。内容は「今の技術分野はこんなに役立つことを教えているのか」などといったことでした。どうやら、子どもが持ち帰った教科書を読んだ保護者の方が、良い驚きを持って投稿をされたようです。この投稿をきっかけに、多くの保護者の方が、子どもの持ち帰った技術の教科書を開き、その内容に前向きな感嘆の声を上げてくれたことは、中学校の技術分野の教育に関わる者としてはとてもうれしい出来事でした。

今回、教科書の内容が話題になったのは、技術分野の学習内容が、世間の求めているもの、もしくは、世間が必要と感じているが、知らないこと、できていないことが、実は義務教育段階ですべての子どもが学習している、という驚きがあったためだと推察されます。

さてそれでは、技術分野の教科書をご覧になった保護者の方が「ところで、技術分野の授業は何をしているの」と子どもに聞いた時、生徒はどのように、現状の技術分野の授業を保護者に語るのでしょう。

技術分野の授業の現状

2021年度から、学習指導要領が全面実施となり、技術分野の授業内容が全ての学年で変わりました。

技術分野の授業では「技術の見方・考え方を働かせ、ものづくりなどの技術に関する実践的・体験的な活動を通して、技術によってよりよい生活や持続可能な社会を構築する資質・能力を育成すること」を目指し、図1のような学習過程で、資質・能力の育成を目標としているものと思います。


図1 技術分野の学習過程と、各内容三つの要素及び項目の関係

では、実際のところ2021年度はどのような授業が行われていたのでしょう。

ここで確認ですが、国立教育政策研究所が発行した『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校 技術・家庭(以下、学習評価参考資料)』には、全ての内容の指導計画の事例が掲載されています。そして全ての事例を通して指導すると、発達の段階を踏まえた3年間の指導計画となるよう想定し作成されています。つまり、学習評価参考資料に示された、各題材の設定時数は、指導計画における時数の目安を示している、とも言えるのです。

そこで技術分野の授業の現状を考察するため、特にそのイメージとして一般に知られている各内容のものづくりなどの時間、つまり「技術による問題の解決の要素(以下、技術による問題の解決)」について、学習評価参考資料に示された指導時数例と、令和3年11月12日に公表された、全日本中学校技術・家庭科研究会が行った、全国アンケート調査内における「令和3年度の指導計画について」の「技術による問題の解決」の設定時数の上位2位までを抜き出し、表1のように比較してみました。

表1 技術による問題の解決における学習評価参考資料に例示された時数と全日本中学校技術・家庭科研究会のアンケートに示された時数の比較

表1からは、内容A以外の4つのものづくりなどで、例示された時数に対し、どれも半分程度の時間しか設定されていないことがわかります。このことから、現状の「技術による問題の解決」の授業では次のような課題があるのでは推察されます。

○ものづくりなどの時間が少ない。

○内容A以外では、特に図1の学習過程における「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」の時間が設定されていない可能性がある。

ものづくりなどの時間が少ない、ということも衝撃ですが、内容A以外で、学習過程における「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」に時間が設定されていない可能性がある、についてはとても憂慮しています。

では、なぜこのことを憂慮するのでしょう。

技術分野を学ぶ意義

他の教科にはなく「技術分野でしか学べないこと」には、ブラックボックスである世の中の技術の構造や仕組みを学ぶ、など様々ありますが、「設計・計画ができる」は、その最たるものです。

例えば、小学校プログラミング教育では、この設計・計画をどうするかに苦労しています。問題を発見して、技術的な課題を設定し、解決策を構想する一連の過程の方法や、指導の時間がどの教科にも設定されていないからです。

技術分野の授業の目的は、「技術によって持続可能な社会を構築する資質・能力」を育てることですが、この資質・能力が育った中学生らしい姿は決して難しい姿ではなく、次のような姿であると考えます。

〇家の食卓で、自分の椅子がガタついたのを気にして、足の部品を確認したり、改善したりする

〇保護者が庭で育てているミニトマトの収穫量が増えるよう、雑草を抜いたり、わき芽をとったりしている

〇動かなくなったいとこのラジコンカーのねじをはずして分解し、中の切れた配線を修理する

〇地域の公民館で利用する施設予約アプリケーションをプログラミングしてつくる  など

中学生なりに、自分の、他者の、家庭の、地域の、社会の問題を見いだして技術的な課題を設定し、技術を用いて解決を考えたり、試みたりするようにしたい、私たちはそう考えて授業をしています。

そして、このような姿になった生徒たちは、年齢を経て、それぞれのできることの幅や立場が変わることで、災害対策のための新しい材料、工法での建築物を建てることに参画したり、農業の生産性を上げるため、作物や地域の現状を踏まえて自動化することを考えたり、外国への機械設備の設置について、保守点検も含めた運用が可能か検討したり、職場に新しい情報システムを導入するとき、管理をどうしたらよいか相談したりするなど、技術による問題の解決を実践し、その視点から社会形成に参画できる社会人になることが期待されるのです。

つまり、技術分野を学ぶということは、「作業ができるようになる」のではなく「設計・計画の力を生かして、技術による問題の解決を考えたり、行ったりできるようになる」意義があるということになります。

このような姿に育成するには、授業中に、問題を見いだして技術的な課題を設定し、解決策を考える、いわゆる「設計・計画」を行った上で、ものづくりなどの作業を通して解決する「技術による問題の解決」の経験を繰り返す必要があります。

しかし、憂慮されるように、「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」がほぼ学習で扱われることなく、作業をすることのみに時間を割かれているとするならば、技術分野でしか学ぶことのできない「設計・計画」の力が育たなくなる、ということになります。

「技術による問題の解決」の充実を目指して

このような現状を解決するには、どうしたらよいのでしょう。技術分野には、指導時数や正規の免許を持つ教員の数等々、多く問題があることは承知しています。本稿では、まず先生方ができる、次の3つの工夫を提案したいと思います。

工夫1 指導計画における設計・計画の時数の見直し

題材の学習過程における、三つの要素の指導時間、特に「技術による問題の解決」での「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」の指導時数を見直してください。もしかしたら、「生活や社会を支える技術」や「社会の発展と技術」の要素に時間を割きすぎていたり、指導が不要な内容が設定されていたりするかもしれません。表2を参考に指導計画の時数を確認してみてください。

表2 学習評価参考資料に例示された三つの要素の指導時数例

最近、指導が不要な内容として気になるのが、1人1台端末の使い方(キータイピングやアプリケーション操作等)です。特に中学校の1人1台端末の活用では、技術分野の先生が中心となり、精力的に進めているという話はよく伺うところです。しかし、1人1台端末は全ての教科で利用していること、すでに小学校段階でキータイピングや、アプリケーションの使用、プログラミングを行った生徒が入学してくるようになること、そして技術分野の指導要領の指導内容に、コンピュータ操作は含まれていない、ということを踏まえる必要があります。限られた指導時数で、技術分野の資質・能力を育成できるような指導計画を立てるとともに、1人1台端末の推進は、各校のカリキュラムマネジメントの編成の中で推進できるようにしてください。

工夫2 「技術による問題の解決」の難易度設定

「技術による問題の解決」について、学習指導要領解説では『各内容における「技術による問題の解決」において生徒が見いだし解決する問題は、生徒が解決できたという満足感・成就感を味わい、次の学びへと主体的に取り組む態度を育むよう、既存の技術を評価、選択、管理・運用することで解決できる問題から、改良、応用しなければ解決できない問題へと、解決に必要となる資質・能力の発達の視点から3学年間を見通して計画的に設定するなど、各内容の履修の順序や配当する授業時数、及び具体的な指導内容などについては、各学校において適切に定めることが大切である。』と示しています。つまり「技術による問題の解決」の難易度は、3年間で徐々に上げていくよう適切に定め、かつ、その難易度は、既存の技術を評価、選択、管理・運用、改良、応用の順番にしましょう、と示しているのです。例えば、1年生の最初の解決策の構想の際は、ある技術とある技術を選択させる程度から始めておき、3年生の最後には、別の内容の技術を改良したり応用したりしないと解決できないような問題解決の難易度に設定をするということです。

また、学習評価参考資料では「技術による問題の解決」の「見いだす問題」と「設定する技術的課題の例」を、表3のように、学年が上がるにつれて、問題を見いだす範囲を「生活から地域社会、そして社会全体」「現在から将来」「私事からみんなの問題」というように、広く大きくし、示しています。

表3 学習評価参考資料に例示された「見いだす問題」と「設定する技術的課題」の例

表1の調査結果からは、この「技術による問題の解決」の難易度が、適切に設定されていないことも伺えます。次の図2のように、ここまでの資料を参考に、各内容の「技術による問題の解決」の難易度を検討し、修正してみてください。


図2 3年間を通した「技術による問題の解決」の難易度の検討と修正の具体例

工夫3 統合的に問題を扱う題材の設定

さらに、3年生の「技術による問題の解決」における「統合的に問題を扱う」ことについて、ぜひ挑戦しがいのある題材設定をしてください。

この挑戦しがいのある題材設定とは、「何と何の内容を統合した問題を設定したら良いのだろう」という考え方ではなく、「生徒が今までの学習内容を生かした技術による問題の解決を行うためには、どのような題材設定をしたら良いのだろう」ということです。

生徒が技術の学びを生かそうと、技術による問題の解決を考えた場合、きっと、その解決策の「技術」は自然と内容AからDが統合的になっていると考えられます。例えば、途中で示した生徒の姿における「保護者が庭で育てているミニトマトの収穫量が増えるよう」という問題を、3年生の生徒が見いだした場合、「雑草を抜いたり、わき芽をとったりしている」という内容Bで学習する作業での解決だけでなく「環境調整のための何かを材料を加工して製作する」「環境管理のデータを把握する計測・制御システムを考える」など、これまでの学習を踏まえた「技術による問題の解決」が期待されます。このような、生徒が主体的に「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」を行うことのできる題材設定は、今後の大事な課題の一つといえます。

ある学校で、生徒が主体的に「課題の設定」と「技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画」を行っている統合的な問題を扱った授業を参観させていただいた際、管理職の先生が「技術分野は、今後、未知の状況を切り開く、問題解決力を育てているのですね。このような力が、今後大切ですよね。」と感心されていたことが、とてもうれしく印象的でした。

技術分野の授業を参観する様々な立場の方が、そして何より、授業を受ける生徒自身が、そのように感じる統合的な問題を扱う技術の授業が実現されたとき、私たちも、冒頭の「ところで、技術の授業は何をしているの」という質問を、ぜひ生徒にしてみたいところです。

まとめ

現在、教科横断的な学びが重視されつつあり、少し前まで高等教育での推進が提唱されていたSTEAM教育なども、義務教育段階での推進が期待されるようになりました。小学校では、算数、理科、プログラミング教育を組み合わせ、総合的な学習の時間でSTEAM教育を推進している学校なども出てきています。

そのような学校の授業で印象に残っていることがあります。理科の授業で、福祉施設の問題を解決しようと「明るくなったら自動でカーテンを開く装置」のモデル制作に挑んでいた児童たちがいました。光量をセンサで計り、カーテンを巻き上げるモータを動かすプログラムは、比較的時間をかけずに実現していましたが、最後まで、カーテンを何度も、確実に、適切な速度で巻き取る機構を製作することができませんでした。やはり、技術分野でしか学べない、構造や仕組み、そして何より「設計・計画ができる」ということを学ばなければ、新しい価値をつくり出すことでの問題解決を進めることは難しく、技術分野の学習は、教科横断的な学びの中で、ハブ的な要素として重要であることを実感した瞬間でもありました。

この児童たちは、中学生になって技術分野を学んだとき、実現できなかった問題解決に、果たして再び取り組んでくれるでしょうか。2021年度から全面実施された技術分野の学習指導要領での授業ならば、それが可能だと信じています。

学校の先生方には、ぜひ授業を通して、新しい価値をつくり出すことで問題を解決する「技術による問題の解決」を楽しく実践する授業を、生徒と一緒につくってくださることを期待しています。私も、私にできることを頑張り、皆様と一緒に技術分野を精一杯盛り上げていきたいと思います。

(参考資料)
・文部科学省 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編、平成29年7月
・国立教育政策研究所 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校 技術・家庭、令和2年6月
・全日本中学校技術・家庭科研究会 研究調査部 中学校技術・家庭科に関する 第8回全国アンケート調査、令和3年11月

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