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中学校 技術・家庭科 NEWS

技術分野の授業実践・ 研究に期待すること

※本稿は、てくテク第11号(令和5年10月発行)の記事を加筆・修正したものです。


渡邊 茂一(わたなべ しげかず)
国立教育政策研究所
教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官
文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官
修学支援/教材課情報教育振興室 教科調査官

はじめに

現行の学習指導要領が全面実施され3年目を迎えました。本年度の中学校第3学年は、指導と評価についてその理念のもと学習をしてきた世代であり、どのような資質・能力が育成されているのか、大変興味深いところです。

現行の学習指導要領では、生徒が技術の見方・考え方を働かせ、ものづくりなどの実践的・体験的な活動を通して、持続可能な社会を構築するための、技術の発展を主体的に支え、技術革新を牽引する力の素地となる資質・能力の育成を目指しています。おかげ様で、昨年度調査官に着任して以降、多くの地区の学校、大会の研究授業で、その育成を目指した、題材、教材、学習指導の工夫とその研究を拝見させていただきました。

例えば、時代の要請を受けた情報の技術の充実に伴い新設された「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」の学習活動の研究や、CADやシミュレータを利用した設計の提案など、技術分野の指導を充実させる多くの提案に関心いたしました。

しかし、私なりに感じた課題もあり、その解決のため、次の5つのことについて、授業実践や研究が推進されることを期待しております。

そこで本稿では、その1つ1つについて解説をしていきます。

① 設計・計画の力を育てる学習

昨年度は、様々な場面で「問題を見いだして技術的な課題を設定する力を育成する学習」についてお話させていただきました。

各内容における「技術による問題の解決」において生徒が見いだし解決する問題は、既存の技術を評価、選択、管理・運用することで解決できる問題から、改良、応用しなければ解決できない問題へと、解決に必要となる資質・能力の発達の視点から3学年間を見通して計画的に設定するよう、「新しい価値をつくり 問題を解決する技術分野の授業を実現しよう」でも解説をさせていただいたと思います。

解決策を構想し、製作図や回路図、計画等に表現する力、いわゆる設計・計画の力の育成にあたっても、この考え方は変わりません。構想にあたって取り組む学習活動の難易度を、表1などを参考に、学年の進行に応じて適切に設定する必要があります。


表1 「生徒が見いだし解決する問題」の難易度

例えば、第1学年で、材料と加工の技術による問題の解決に取り組むときには、自分が設定した課題を解決する製品の材料や形状について、教員があらかじめ例示したものから選択する学習活動、生物育成の技術による問題の解決に取り組むときには、自分が設定した課題を解決する環境調節の方法の効果が発揮できるような適切な状態に維持する方法や用いる方法を計画する学習活動の設定が考えられます。

例えば、第2学年で、エネルギー変換の技術による問題の解決に取り組むときには、自分が設定した課題を解決するために、既存の回路の部品や配線を変え改良させる学習活動、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決に取り組むときには、自分が設定した課題を解決するために、基本形のプログラムを、構想した情報処理の手順に従って改良する学習活動の設定が考えられます。

例えば、第3学年では、統合的な問題を解決するために、それまで学習した様々な技術を応用して、計測・制御システムを構想する学習活動の設定が考えられます。

②「社会の発展と技術」の学習

技術分野で育成することを目指す資質・能力は、単に何かをつくるという活動ではなく、例えば、技術に関する原理や法則、基礎的な技術の仕組みを理解した上で、生活や社会の中から技術に関わる問題を見いだして課題を設定し、解決方策が最適なものとなるよう設計・計画し、製作・制作・育成を行い、その解決結果や解決過程を評価・改善し、さらにこれらの経験を基に、今後の社会における技術の在り方について考えるといった学習過程を経ることで効果的に育成できます。そこで、学習指導要領では、このような学習過程に沿って、内容を「生活や社会を支える技術」「技術による問題の解決」「社会の発展と技術」の項目で整理し示しています。しかし、そのうち「社会の発展と技術」の学習が十分でないと感じています。

「社会の発展と技術」では、「生活や社会を支える技術」「技術による問題の解決」で獲得した資質・能力や経験を活かした学習活動に取り組むことで、「技術とは何だろう」といった技術そのものに対する概念、それを踏まえ技術の発展を主体的に支えることを考える力、そして、今後どのように技術に関わっていったらよいのだろうといった態度の形成をねらいます。その時に重要なのが、それまでに鍛えた技術の見方・考え方を生徒が働かせることです。どのような学習課題を設定し、どのような学習支援を行なえば、見方・考え方を働かせられることができるのか、検討することが必要です。

例えば、評価の対象となる技術は、それまでの学習で対象とした技術が含まれているか、学習の経験が生かされる技術が選択されているか、といったことが関係するでしょう。ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングでは、最近、画像解析のAIを活用したコンテンツを制作する事例が増えてきました。その問題解決の経験を踏まえて生成系AIの技術を評価させれば、プログラミングの際に画像の機械学習を行ったことや、判定させるために苦労したり、成功したときに嬉しかったりしたといった経験が活き、開発者の立場に立った生成系AIの技術の評価が行われることが期待されます。

③システム化した現代の技術に対応する学習

現代の技術は、1つの技術で完結せず、複数の技術が組み合わさり、連動することで成立しているものが多くあります。これをシステム化した技術、と呼んでいます。例えば、学校の畑に自動潅水をするものを製作するとします。第3学年であれば、全ての内容の技術を学習しているでしょう。そのような生徒には、土壌にセンサを刺してマイコンで計測し、水栓の開閉を制御するものを考えるとともに、実装に当たり、外に放置しておいてもマイコンが壊れないよう、材料や形状を工夫したり、メンテナンスがしやすいよう分解してマイコンを取り出しやすくしたりした外装を考えるなど、それまでの学習を統合した解決策を構想することが期待されます。このような、3学年間の学習成果を総動員し、問題の解決に取り組む学習を経験することで、システム化した現代の技術に対応できる資質・能力を育成したい、そのための学習課題を第3学年で設定してください、というのが「統合的な問題を扱う」ことの趣旨となります。この時、①でも触れた第3学年段階で解決すべき問題のレベルを考えると、特定の問題を、教師が設定したシステム化された技術を用いて解決する学習活動ではなく、生徒自身が、問題を見いだして技術的な課題を設定し、技術を改良、応用しなければ解決できない学習課題を設定することを期待しています。

④小学校、高等学校との接続を明確にした学習

技術分野は、小学校と高等学校に教科がありませんが、図画工作科での「工作」、理科での「ものづくり」、生活科での「遊びに使うものをつくる」、「動物を飼ったり植物を育てたりする」、総合的な学習の時間での、探究課題として「ものづくり」を設定した学習、情報活用能力の育成を目的とした、各教科等における「プログラミング」を体験する学習活動など、ものづくりなどの経験を活かして、題材を計画する必要があります。また、育成する知識及び技能については、小学校の学習を通じて、表2のような準備状況があることが期待されます。


表2 学習指導要領解説に記載された技術分野の知識及び技能に関する小学校の学習を受けた準備状況

さらに、技術分野で育成する思考力、判断力、表現力につながることとして、図画工作科における「試作して丈夫な組立て方や構造を確かめる」「別の視点から捉え直すことによって新しい発想や構想が生まれ、最初に考えたことよりも気に入った発想や構想になる」といった経験が期待されます。高等学校とのつながりについては、情報Ⅰと内容「D  情報の技術」との関連について言うまでもないでしょう。

これらのことを踏まえ、小学校の学習経験を活かし、高等学校の学習に適切につなぐための学習課題や学習活動の検討に取り組んでほしいと考えます。

例えば、手回し発電機でコンデンサに電気を貯め、その電気を使ってLEDを点灯させる回路の制作等を、小学校で経験している場合があります。この授業にプログラミング教育を関連させ、コンデンサに貯めた電気を長く利用する視点から、LED照明の点灯を、センサを利用して条件に応じて制御する問題解決型の授業も発展的に行われています。このような授業を経験してきている生徒に対し、どのような学習課題を設定したらよいのかは、ここまで述べてきた①から③と併せて考える必要があるでしょう。このような生徒には③のシステム化と併せて、もっとワクワクするような学習課題を設定して取り組ませ、技術による問題解決の力をしっかりと育成した上で高等学校に送り出す計画を立てたいものです。

⑤1人1台端末を活用した授業改善

多くの自治体で、1人1台端末整備から3年目を迎え、当初は手探りだったその活用も、自治体によって大分こなれてきた様子があります。クラウドを活用して1つのファイルへ共同でのアクセス・編集を行ったり、チャット機能やコメント機能をうまく利用したりするなど、これまでにない学び実現している所もあります。しかし、このことについては地域間格差が大きく、未だにクラウド活用に踏み出すことに躊躇する学校や自治体があるのも現状です。

技術分野の学びは元々、特に問題解決の場面を中心に、個々が解決する課題を設定して取り組むことが多く、1人1台端末の活用と相性が良いと感じています。

最近では「学びにおいてテクノロジーを活用する」といったキーワードもよく聞かれるようになりました。仕組みを踏まえ、学びにおいてもテクノロジーを活用し、その質をあげていくことについて、技術分野で率先して事例が生み出されることを期待しております。

その際には、ぜひ、文部科学省のwebサイト「StuDX Style」なども参考にしてください。

まとめ

ここまで、学習指導要領実施上の課題を解決する、5つの「実践や研究に期待すること」について解説しました。これらのことに関する授業実践や研究が全国で推進され、子どもたちがワクワクする授業に取り組みながら、技術分野で目指す資質・能力を獲得していくことを期待しております。

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