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「見える」食育を。べジチェック®を活用した食育授業


こちらの記事はてくテク第11号より加筆、修正したものになります。

カゴメといえば、トマトケチャップやトマトジュースなど、野菜を使った食品や飲料を思い浮かべる方が多いでしょう。現在、日本で消費される緑黄色野菜の約17%をカゴメが供給しています。カゴメは「トマトの会社から野菜の会社に」というビジョンを掲げ、日本の野菜不足ゼロを目指しています。
その取り組みの一つとして従来のフードシステムに加え、お客様がもっと野菜を食べよう!と意識して実行いただけるような健康サービスを提供する事業を開始しました。主なサービスは、管理栄養士による食生活改善セミナー、野菜飲料などを活用した野菜摂取環境サポート、そしてセンサーに手のひらをのせるだけで野菜摂取量を推定できる「ベジチェック®」の提供です。今回はベジチェック®を活用した効果が見える公立小学校での食育授業についてご紹介します。

野菜摂取量推定機器「べジチェック®」

厚生労働省が定めた1日の野菜摂取目標量350gに対し、現状はほとんど増加していないのが現状です。原因の一つとして、「国民が自分の野菜摂取量を把握できていないこと」が挙げられます。
そこでカゴメは、皮膚カロテノイドを光学的に測定するセンサー「ベジチェック®」を開発し、2019年夏より提供を開始しました。ベジチェック®は、手のひらを測定器にかざすだけで、過去1ヶ月程度の食生活で1日あたりの推定野菜摂取量を表示します。ベジチェック®を活用した食育プログラムにより、受講者の野菜摂取量が増加することが示唆されています。ベジチェック®の提供開始以来、多くの学校からベジチェック®を使用した食育授業の要望がありました。しかしレンタル費用の問題でなかなか実現できませんでした。

べジチェック®を活用した食育授業の開発

そのような中、東京都町田市教育委員会様から市内小学校でのベジチェック®使用に関する相談を受けました。そしてせっかくベジチェック®という野菜摂取が「見える」機器を活用するのならば、食育授業によって児童の野菜摂取量が変わったかを「見える」ところまでやってみましょう!という取り組みを実施することになりました。
町田市の小学校栄養教諭の先生方や、学校長の皆様のご助力いただきながら、担任教諭や栄養教諭(栄養士)が中心となり、特別活動、総合学習、及び家庭科の時間で多くの小学校で自立して実施できるような指導案、授業で活用する副教材などを作成しました。授業は基本的に2回構成です。

1回目の授業では、給食の食材の役割、特に野菜が健康に及ぼす影響について学習します。その後、授業直前に測定したベジチェック®の値について説明し、児童自身が普段どれだけ野菜を食べているのかを理解してもらいました。その後はどうしたらもっと野菜を食べられるようになるか、というコツを学習し、最後に学習した内容を基に一ヶ月後のベジチェック再測定で測定値を改善させるための行動目標を児童自身に考えてもらいました。
また、保護者に対して授業で児童が学習した、野菜をもっと食べられるためのコツをまとめた資料をご提供し、一ヶ月後の再測定に向けてご家庭でも野菜摂取の増加に取り組んでいただくようにお願いいたしました。
そして、2回目の授業では、ベジチェック®の再測定と、一ヶ月間の行動目標に対する取り組みの振り返りを行い、日々の野菜摂取増加の取組みが測定値に与えた変化について考えてもらいました。今回実施した食育授業では、2回のベジチェック測定を実施しました。

食育授業が児童の野菜摂取に与えた影響

モデル校の一つである鶴川第三小学校での児童のベジチェック測定値の変化を見ると、1回目の測定に比べ、2回目の測定では、児童の約7割で測定値が増加しており、野菜摂取レベルの測定値の平均が統計学的有意に増加していました。
また、授業後に児童と保護者に実施したアンケートでは、児童の9割以上が食育授業後に意識的に野菜を食べるようになったとの回答が得られました。保護者に対するアンケートでも、約9割の家庭で、授業後に児童から家族に食育授業の内容についての情報提供がなされたと回答が得られ、約6割の家庭で、児童から野菜を食べたいとの要望があったとの回答が得られました。
これらの結果から、ベジチェック®を活用した食育授業が児童の野菜摂取量増加に効果的であることが示唆されました。

今後の展開と課題

町田市では、ベジチェック®を活用した食育授業を実施したモデル校での結果を受けて、2023年からは実施校を拡大し、2024年以降も継続して授業を実施する予定です。また、現在、町田市以外でも複数の自治体にて今回作成した指導案を基にした食育授業が展開されています。
一方で、小学生のような児童は、自分が食べる食事を自分で用意するのではなく、学校や保護者が提供するものを食することがほとんどです。さらに、学校給食は平日の昼のみの提供であるため、児童の食のほとんどは家庭に依存しています。そのため、食育授業によって児童の野菜摂取意識が高まっても、家庭で提供される食事の内容に変化がなければ、児童の野菜摂取量を増加させることは困難です。その為、食育授業の効果をより高めるためには、学校で食育授業を実施すると同時に、保護者に対する食育情報の提供や、家庭と連携できるような取り組みを強化することが必要と考えられます。現在、保護者に対する食育授業の情報提供資料の充実や、食育授業を保護者に公開するなど、学校と家庭とが連携した食育が実施できるような工夫を開始しています。
また、自治体や小売店と協力して、食育授業を実施する地域でのベジチェック設置の推進など、文部科学省が目指す、学校、家庭、地域が「つながる」食育を推進することを目指します。また、2023年は、町田市において中学生を対象とした食育授業の開発も進められています。中学生以降は小学生と比べて保護者への依存が減り、友人関係などから社会性を養っていくため、食の選択に関しても保護者からの自立が見られていきます。
そのため、食生活を整えることや、野菜を十分に摂取することは、今の自分や将来の自分によってどのような利益があるのか、良い食生活を送ることや野菜を十分に摂取することは良いことと認識しているにも関わらず、その行動が出来ないのはなぜか、という点を自らが考察し、それを理解した上でどうすれば食生活を改善できるのかを考え実践するような内容にすることを考えています。

「見える」食育を。

学校での食育に関しては、各地域や学校で特色ある取り組みがなされており、好事例についても報告共有がなされています。一方で、食育を実施したことで、児童の食生活にどのような変化があったのか、という点までの評価がなされている事例はあまり多くありません。食育授業の成果が見えづらいことで、改善点が明確にならないことが課題の一つと考えられます。また、児童にとっても、学んだことを活かして食生活を改善した場合にその成果を実感することは困難でした。しかし、近年は本食育授業で活用したベジチェック®のように、様々なセンシングデバイスが開発され、これまで見えなかった健康や生活習慣が「見える化」出来るようになっています。これらの新しい「見える化する」技術を活用することで、成果の見える化が進み、学校、児童の双方にとって有意義な取り組みを実施できることが期待されます。

 

信田 幸大 (のぶた ゆきひろ)
カゴメ株式会社 健康事業部 企画グループ 勤務。カゴメ入社後、乳酸菌の機能性研究、食品開発、商品の品質管理の業務に従事した後、食育に関する研究を開始。現在は食行動の改善を促す健康サービスの企画開発とそのエビデンス取得に取組む。

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