核を持つと戦争のリスクが高まる?!ゲームで学ぶ安全保障の授業

核兵器禁止条約が2021年1月22日に発効することが先日ニュースになりました。唯一の被爆国である日本は「アメリカの核の傘」のもとにいるという理由から、この条約を批准していません。このようなアクチュアルな安全保障の問題を学校教育でどのように扱うべきでしょうか。むろん教科書通りに日本国憲法の平和主義を尊重すべきですが、一方で国際情勢に即した現実の外交政策も意識する必要があるでしょう。また、政治的中立性を保ちつつこのような問題を教えることの難しさもあります。対話型の授業をやるにしても、議論の前提として複雑な安全保障に関する知識が必要となり簡単ではありません。
本稿では、思考実験としてゲームを授業に取り入れ「核の抑止力」についてアクティブな学びを実践している早稲田大学高等学院中学部の前田圭介先生の公民の授業レポートをお届けします。

 

なぜゲームを活用するのか 

2010年代以降、「どのように授業にアクティブラーニング(以下ALを取り入れていけば良いのか?」という議論が学校現場で盛んに行われるようになり、ALの授業実践に関する教育書も多数出版されています。この言葉もともと大学教育の質向上に関する2012年の中教審答申で登場したもので現在の中学・高校の学習指導要領ではALではなく「主体的・対話的で深い学び」という表現が採用されていますが、今なおAL学校現場におけるホットトピックの一つとなっています 

こうした変化の中で授業におけるゲームの活用にも注目が集まっていますこれまで学校学習と対立するものとして否定的に捉えられることが多かったゲームですが、最近では「学習意欲が高まる」「学びへの没入感が自然と生まれる」「チームワークスキルやチャレンジ精神を養える」といったゲーム活用積極的な意義を指摘する研究紹介されるようになっています[1]「モノポリー」「マインクラフト」LEGO®など活用して遊びと学びを融合させ授業行う学校増えつつあります社会科においても「貿易ゲーム」など有名なゲーム授業実践があります学習のためのゲームのデザインは今後より重視されるようになるでしょう 

では、公民科の授業においてどのようにゲームを活用することができるのでしょうか。今回は、現在勤務している早稲田大学高等学院中学部の3社会(公民分野)の授業実施したゲームをご紹介したいと思います。 

 [注1] ライゲルース、ビーティ、マイヤーズ編(2020)第8章など  

交渉ゲームの結果を読み解く 

今回ご紹介するは、戦後の国際情勢を理解するために行った交渉ゲームです。交渉ゲームは戦後国際政治史の授業の初回で行ったもので、外交交渉の難しさや核兵器保有の意味実感してもらうことを狙いとしました。 

授業の最初に「ゲーム理論」「囚人のジレンマ」について簡単に解説した後、2種類の交渉ゲームをペア実施しまし 

ゲーム1、完全情報の繰り返しゲームです生徒はA国とB国に分かれ、「平和」「攻撃」カードのうちどちらか一方んで同時に出します。出したカードの組み合わせによって、以下の表の通り点数獲得ます。このゲームを7繰り返し、「できるだけ多くの点を獲得する」ことを目指してもらいました今回は一般的な囚人のジレンマの利得表を用いお互いに7回とも「平和」を選択できれば21ずつ獲得できる設計にしました 

ゲーム2、不完全情報の繰り返しゲームですゲーム1と同様に「平和」と「攻撃」のいずれかを選ぶゲームを7回行い、「できるだけ多くの点を獲得する」ことを目指してもらいましたが、今回はクラスのうち10名程度にランダムで「核兵器」のカードを配布ました残りの生徒にはダミーのカードを配布しました)核兵器のカードを受け取った生徒はゲーム中1回だけ核攻撃を行うことができ(必須ではない)核攻撃を行うと相手点数0にリセットされるという設計にしました 

ゲーム1と大きく異なるのは、相手が核兵器を持っているかどうかが分からないため、相手国との交渉がより重要となる点です。交渉を通じて「相手国が核を持っているか否か」の情報を引き出し、核を持っている国はその立場を最大限に活用しながら、核を持っていない国は弱みを握られないようにしながら点数積み上げていくことが求められます。  

【ゲーム1の得点表】

【ゲーム2の得点表】(R:得点リセット)

交渉ゲームの結果を記入したワークシートを提出してもらい、次の授業で集計結果を提示しながらフィードバックを行いました。以下、3の生徒120名の結果を見てみましょう 

まず、ゲーム1の結果です。
注目すべきは、4回目以降に3点(互いに平和)の割合減り、その代わりに1点(互いに攻撃)の割合顕著に増えていることです。7回目に両国とも「平和」を選択できたのは20%に留まりましたの結果から、どちらか一方が裏切り始めると互いに「攻撃」を選択する状況に陥りやすくなることが分かります。 

続いて、核兵器を導入したゲーム2の結果す。
核兵器を導入したことで、より一層「平和」を選択しづらくなったことが分かります7回目に至っては、両国とも「平和」を選択できたのは1.7%のみでした。核を使われるかもしれない不安から相手国を信用できなくなり、ゲーム1以上に平和を選択するインセンティブが弱まったことが窺えます。 

また、核兵器を手に入れたのうち半数以上7回目に核を使用しています。このゲームは有限繰り返しゲームのため、どうしても最後の7だけ攻撃することにメリットが生じてしまいますしかし、実際の外交交渉の性質は無限繰り返しゲームに近いため、今回のゲームと現実の外交の違いについてはフィードバックで言及しました。ワークシートの感想欄も、「ゲームの時は終わりが分かっていたから核も使えたが、外交のように終わりが見えない場合が冷戦なのだと気付いたという繰り返しの性質に着目したコメントがありました。 

最後に、両ゲームで生徒が獲得した得点の分布を見てみます。核兵器の導入により、ゲーム2の方が全体として得点が低くなっています。もう一つ注目したいのが21点以上を獲得した人の割合です。両国とも「平和」を選択し続けると21となりますが、今回21点以上を獲得できたのはゲーム121.6%、ゲーム210.8%に留まりました。より高い点数を得ようとして一度裏切ると、「攻撃」をお互いに選択する状況に陥ってしまい、結果として21点に届かないというジレンマが多くのペアで発生したことが分かりますこうしたジレンマの発生は、ゲーム理論や国際政治学の研究でも指摘されている通りです。 

冷戦の性質について、「安全保障のジレンマ」「核抑止」「相互確証破壊」などの用語を紹介しつつ講義形式で解説することも可能でしょう。しかし、交渉によって他国と協力関係を築く難しさを体感し、ゲームの集計結果を見ながら振り返りを行うことで、「なぜ核が重要な外交カードになるのか」「なぜ大国間の核軍縮は困難なのか」という点理解できるようになり戦後国際関係史の全体像も見通しやすくなります。このように、ゲーム活用によって自然と学びが発生する場を創り出すことが可能となるのです 

ボードゲームで交渉をより深く学ぶ 

さらに今回は、希望者を募って「ディプロマシー」というボードゲームを特別授業実施しました。このゲームは、プレイヤーが第一次世界大戦前の緊張関係にある欧州列強7ヶ国をそれぞれ担当し、覇権を巡って争う戦略ボードゲームです。運の要素は一切なく、他国との交渉のみでゲームが進んでいきます(1959年に発売された古典的ボードゲームで、キッシンジャーが愛好したことでも知られています)。所要時間が5時間という大作のため、通常の授業内で取り組むのは困難ですが、時間さえ確保できればプレイする価値大いにあるゲームだと思います[注2] 

先ほどの2種類の交渉ゲームはいずれも相手が一ヶ国であり、行動の選択肢も限られていました。しかし、ディプロマシー全体の情勢を見ながら仮想敵国や同盟国その都度決めなければなりません。当然交渉も複雑になり、一度結んだ同盟を破棄して裏切らないと勝てない場面も出てきます。外交のリアリズム的な側面を強調したゲームである点には注意が必要ですが、このゲームを通じて外交戦略の重要性交渉を実現させるコツなどを学ぶことができます。 

ディプロマシーやモノポリーなど長く遊び継がれているゲームはルールやパワーバランス適切に設計されているものが多く、交渉や協力などの要素も上手く織り交ぜられています[注3]。「独自のゲームを考案するのは難しい」と感じられる先生も多いと思いますが、既存のゲームを取り入れることでゲーム活用のハードルも下がるのではないかと思います 

 

[注2] 麻布高等学校の先生が、ゲーム理論を踏まえてディプロマシーを行う授業実践を紹介されています。以下の「ディプロマシーで体感するゲーム理論」を参照。https://www.slideshare.net/takayukihayashi965/ss-233426570 

[注3] 既存のボードゲームのメカニクスを仔細に分析したものとして、シェレブ、エンゲルステーン(2020)があります。 

 ゲームの可能性を考える 

新科目「公共」では他者との協働や合意形成が重視されており、学習指導要領の解説にも「他者と協働して多面的・多角的に考察構想するとともに協働の必要な理由協働を可能とする条件協働を阻害する要因などについて考察を深めることができるようにすること」という記述があります。こうした他者との協働や合意形成のあり方を学ぶうえで、ゲームを活用できる余地大いにあると考えています。 

また、中高生が熱中しがちなスマホゲームの多くはあまり思考を働かせずに遊ぶことができてしまう「消費」の側面が強いものですが、今回ご紹介したような交渉ゲームは自分なりに戦略を編み出したり他者と連携したりすることが必要な「創発」の側面が強いものといえます[注4]WHOがゲーム依存症を正式に疾病として認定するなど、ゲームの中毒性との向き合い方は大きな課題となっていますが、こうしたゲームの性質の違いを意識すること学習にも上手くゲームを取り入れていくことができるのではないかと思います 

もちろん、何でもゲーム形式にすれば良いというものではなく、ゲームだけで全ての学びを完結させられるわけではありません。単に「楽しかった」で終わらないようにするためには適切な目標設定やフィードバック求められますし、どのような学びの文脈の中にゲームを位置づける重要となります。また、授業内でゲームを活用する場合、「相手に勝ちたい」という競争意識が前面に出てしまうことが多いため、過度に競争を煽ってしまうようなゲームではクラスの人間関係を崩してしまいかねません。競争だけではなく他者との協働を実現できるようなゲーム設計がカギとなります。 

しかし、ゲームの設計さえ適切に行うことができれば、ゲームの活用は大いに学びを豊かにしてくれることでしょう。遊びと学びの融合が今後どのように進んでいくのかに着目しつつ、私自身もゲームを活用した授業のあり方さらに模索していきたいと考えています。 

 

[注4] かえつ有明中学高等学校などでは、探究学習の一環として新しいボードゲームの開発を行っています。制作にあたっては、ゲームのメカニクスを理解したうえで自ら適切なルール設計をする必要があるため、新しいボードゲームの開発は教員が用意したゲームをプレイする以上に「創発」の側面が強い活動といえます。 

 

参考文献 C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ(鈴木克明監訳),2020,『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』北大路書房.
I.シェレブ、G.エンゲルステーン(小野卓也訳),2020,『ゲームメカニクス大全 ボードゲームに学ぶ「おもしろさ」の仕掛け』北大路書房. 
前田圭介 
東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学コース修士課程修了。早稲田大学本庄高等学院や栄光学園中学高等学校で公民科講師として勤務。現在、早稲田大学高等学院中学部社会科(公民)講師。少人数制探究型学習塾「知窓学舎」横浜本校教室長。研究テーマ:教育と労働の接続就職指導、定時制高校、公民科教育