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新任の先生方の中には、「どのような授業をしていけば、生徒が興味・関心を持つだろう?」「どのように授業準備をおこなえば、効率よく指導ができるだろう?」と思われている方もいるのではないでしょうか。そのような課題に対し、さいたま市の公立中学校で、初任者指導教員として技術・家庭科(家庭分野)を担当する金子京子先生へ、授業のヒントとなる話を伺いました。
目次
編集部: 昨年からのコロナ禍の影響で、自粛中の授業はどういった感じだったのですか?
金子: さいたま市からの要請で、各教科でプレゼンや動画を作って、発信していました。栄養素のパワーポイントを作ったり、家でも実習ができるように「まつり縫い」や「玉結び」の動画を作ったりしました。2021年度からさいたま市では生徒一人につき一台ずつのタブレットが渡されますし、これからはタブレットを使用した授業づくりが求められると思います。
編集部: 2021年度から新しくなった教育図書の教科書は、いかがですか?
金子: 教科書にQRコード(二次元コード)が付いたのは、いいですよね。リンクから実習動画などを観て、生徒ひとりひとりが学べますし。「住まいの中で起こる事故(家庭内事故)」のイラストページは、すごくいいと思います。家具や間取りと人物の関係がよくイメージできるので。この答えがないページもあれば、もっと使いやすいと思います。
編集部: 実は、この教科書ページの右上にあるQRコードを読み取ると、答えが載っていないページも見ることができるんです。
金子: 本当に?いいですね。学習をして、そのあと答え合わせができますね。
※下記URLより「まつり縫い、玉止め」動画が視聴できます。
https://www.kyoiku-tosho.co.jp/wp/junior-hs/support/k725_katei_b4.html
編集部: 今日は、初任者の先生についてお聞きしたいのですが、みなさんどんなことに悩まれているのでしょうか?
金子:授業後に「面白くない授業をしてしまった」と話されるときがあります。「どうしてわかるの?」と聞くと「生徒の表情や態度で分かります」と伝えてくれます。
編集部: 生徒が興味をもつ授業を考えることは、なかなか難しそうですが、どのようなアドバイスをされているのか教えてください。
金子: 「少しでも、すべての生徒が楽しんで取り組めるものを取り入れてみては。」と話しています。生徒が受け身ではなく,主体的に授業に参加できるような工夫があるとよいと思います。
編集部: 例えば教科書を使って簡単に取り入れられる例として,具体的にはどのようなものがありますか?
金子:教育図書の教科書のシールはとても良いと思います。シールを用いて食品に含まれる栄養を確認する学習は生徒が大好きです。先生の中には、モノクロで印刷した食品を、生徒に切り取らせ、糊で貼らせている先生もいますから。シール教材は助かります。あとは、栄養計算のアプリを使うと、生徒は主体的に取り組んでくれます。
簡単!栄養andカロリー計算 1日の食事を入力すると、自動で一覧表を作成することができ、栄養素の過不足を知ることができる。
編集部: 金子先生から、いろいろ学べる先生がうらやましいです。地域によっては、初任者指導がそれほど手厚く実施されないところもあるようです。あまり教わる機会の少ない1年目の先生は、どうやって授業の方法などをつかんでいくんでしょうか。
金子: 教師になって間もないころは、生徒が静かに授業を受けてくれていると安心します。例えば、先生と生徒のやりとりを穴埋め式のワークシートを活用しておこなう授業は比較的静かに進めることができます。テストにも、その穴埋めが出るので、対策がしやすいんです。しかし、生徒の立場になってみると、先生や、級友が回答した単語や文章を書いているので、本当に理解しているのかというと疑問に思います。自分で取り組み、考えて理解することが大切ですから。
編集部: その他に,初任者の先生は、どんなところで悩まれることが多いですか?
金子: みなさん真面目で、新しい題材に入ると、教科書に書かれている順番通りに教えようとします。すると、「このページが、まだ教えきれていませんが、どうしましょうか。」と相談されます。私は、「教科書は,学習指導要領の内容を工夫して膨らませて作られているから,学習指導要領に書かれていることを教えられていれば、大丈夫ですよ。」と話します。そのあと3学期頃になるまでには、だんだんと慣れてきます。授業にねらいを取り入れることを忘れず、生徒が「家庭科って面白い!」と思ってもらえるような授業づくりができるようになってきます。
編集部: 金子先生は,実際に授業でどのような工夫をされているのですか?
金子: 私は、最初から教科書を開かせないことが多いです。学んだことの確認に使うようにしています。楽しんで取り組ませる中に、必ず、生徒自身で考え、他者と対話し、さらに考えを広げ深められたことが、ねらいにつながっている授業を作り続けたいと思っています。その授業でおこなったことの確認は、教科書がとても適しています。
編集部: まさに「主体的・対話的で深い学び」で授業を展開して,知識の確認のために教科書を使っているのですね。例えば弊社の教科書p.180では,「おもな繊維の種類とその特徴」の表を載せています。身につけさせたい知識がたくさんあるところは,どのように指導されていますか?
金子: 生徒たちに、体験をさせるとよいと思います。レーヨンを水に入れたらすごく小さく、固くなってしまったり、化学繊維をアイロンでかけるとキュルキュルっと縮んだり。植物繊維と動物繊維を燃やすと、植物繊維は灰になったり,動物繊維は匂いがしたりします。生徒の目が輝き、気持ちが動いていくことが、授業では必要だと思います。取り扱い絵表示と合わせて学習すると、さらに効果的です。表示に書いてあることを見ないで取り扱うと大変になることがよく理解できます。
編集部: なるほど!ただ、先生方の中には授業づくりについて苦労されている方もいらっしゃるようで。最近話題になっているSDGs(エスディージーズ)については、どうですか?
金子: SDGsは、総合的な学習の時間や、社会科などいろいろな教科で学んでいますよね。重要なことは、「最初に、生徒が学びたくなるような動機が設定されているかどうか」です。以前、NHKスペシャルのプラスチックの映像を見せたところ、それがすごくよくて、生徒たちが驚き、これからの学びに必要性のある学習であると感じてくれていました。
※NHKスペシャル2030 未来への分岐点 (3)「プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界」
編集部: たしかに、最初に共感や驚きを感じると先を知りたくなりますね。生徒の興味を引きつけるにはどうしたらよいか、身近なところから教材として何が使えるか、常にアンテナを張ることが大事ですね。
編集部: 先生が教えていて、嬉しかったエピソードを教えてください。
金子: 家庭科というと、調理実習や、被服学習というイメージの人がまだまだ多いようです。しかし、これからの生徒は、多様性社会の中で生きていきます。LGBTや外国籍の方等との出会いや、様々な家族も増えてくることでしよう。共に地域や社会で暮らしていくことに必要な見方を育てることが必要となってきます。そういう授業にも取り組んでいます。すると生徒の中に「家庭科は、すごく奥が深い教科だ。」「家庭科のイメージが変わった。毎回の授業が楽しみだ。」と言ってくれる生徒も、初任者の授業から出てくれたことに驚いております。
編集部: 家庭科を学ぶ生徒が将来どうなってほしいと思いますか?
金子: 私が何のために家庭科を教えているかというと、「幸せな人生」「幸せな家族」であってほしいと思っているからです。例えば、家族がしっかりしていれば社会に貢献できるのではないかと思います。政治家の人も、企業の人も家庭のことをきちんとして、家族のことを理解していればよりよい政策や制度につながっていきます。18歳成人をむかえるにあたって、家庭科は社会とのつながりの土台になるので、しっかり学んでほしいです。
編集部: 教える上で気をつけておきたいことはありますか?
金子: 例えば、幼児とのふれ合い体験に行くと、生徒は「(ふれ合えて)よかった」と感想を書くことが多いです。小さい子がかわいいとか、そういうムードが流れている傾向がありますが、絶対に「よかった」だけではないと思います。どんなところで困ったか、どんなところでハラハラしたか。そういったことが、実際に自分の子どもと接するようになったら、その連続です。子育ては、子どもがかわいいから救われる部分もあるけれど、それだけじゃない。難しい部分もある。それを学習を通して補っていくことが大切です。児童虐待を防ぐことも、幼児の学習の目的の一つだと思っています。
編集部: 子育てをしたら「こんなはずじゃなかった」と思わないようにしたいですね。
教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より
編集部: 最後に初任者の先生へ向けて、メッセージをお願いします。
金子: 家庭科の先生は学校に1人だけのことが多いですから、協力者をたくさん作るといいと思います。家庭科の授業にいろいろな先生を巻き込む。私は今度、家族の授業で絵本を調達するので、司書さんに手伝ってもらいます。喜んで協力してくださっています。浴衣の着付けの授業でも、自治会の人を呼んでもらうとか。家庭科は、応援隊をいっぱい作れる教科でもあります。
授業で迷ったときは,知識や経験の蓄えが必要です。本屋さんや家庭科の大会へ足を運ぶ。家庭分野の本は大きな書店にしか置いていないから日頃からチェックしておく。
子どもの目線になって、子どもたちが今何を必要としているのかを想像する。授業で実践してみて「これはいいな」とか、そうやって試行錯誤して作っていくといいと思います。
今もコロナは続いています。先生方は、授業のこと以外にも、感染防止対策など様々な業務・対応に追われていることでしょう。あまり根詰めず、周りと協力し、できるところからなさってくださいね。
〈了〉
(取材・文/教育図書編集部 武石暁子)
【関連情報】
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