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中学校 技術・家庭科 NEWS

「家庭科の授業に絵本を “家族の多様性、ジェンダーを扱うヒント”」

 

家庭科の先生の中には、「多様な家族が増加する中で、実際に『家族』の授業をどのように展開していけばよいのだろう?」「『家族」の授業はサラッと流してしまいがち。」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一例として、絵本を通して日本や世界に多様な家族があることを伝える方法があります。
今回は、神保町にある子ども絵本専門店の店長さんに、家族の多様性、ジェンダー、児童虐待などのテーマを扱った絵本についてお話をうかがいました。

        ©miyatachika

茅野由紀(ちの・ゆき)さん 「ブックハウスカフェ」店長 さまざまなジャンルの絵本や児童書について、メディアに発信。10歳の女の子、8歳の男の子の母。

 

男の子と女の子、絵本の主人公はどちらが多い?

店頭に立っていて、男の子の親御さんに女の子が主人公の本をすすめたら、

「うちは男の子だから」

と言われることがあったんです。ある時は、

「男の子なので乗り物の本を贈りたいんです。」

「男の子なので、包装紙はブルー系にしてください。」

 

と言われることも多く、モヤモヤした気持ちになります。

絵本売り場を見ると、主人公が男の子、女の子という属性で、テーマが語られがちではないかと思うこともしばしばあります。

例えば、外に大きく飛び出していく「冒険物語」「思い切りがよい」は、男の子が多く、「おとなしい」「他人のケアをする」「我慢する」は女の子が多いのでは、なんて思います。

また、男の子は「普通の子」が主人公になれるのに、女の子は「スーパーガール」でなければ主人公になりにくい。つまり、女の子が主役になるには「理由」がなければならない、といった傾向はないだろうか、とも。

そんな中、『ジャーニー』という絵本は、男女どちらが主人公であっても成立する物語なのですが、女の子を主人公としています。

 

『ジャーニ― 女の子とまほうのマーカー』「文字が入っていない絵本。少女が赤いペンで部屋の壁に描いた扉は、魔法の世界への入り口だった。船や気球に乗って不思議な冒険を進めます。ニューヨーク各紙で大絶賛。」アーロン・ベッカー作

 

様々な切り口、大胆なテーマ、人権などを取り扱う絵本は、多様性を感じることが多いですが、海外から常にやって来る印象があります。

フランス、オランダ、スウェーデンなどの絵本には、家族や性の多様性、難民、人権を扱っているものなどがあり、中にはかなり奥まで踏み込んだ内容のものも見られ、その積極性に驚くことも。日本ではそういったところは保守的と言える気がします。

『あめだま』(韓国)はお父さんと子どもだけが登場する設定で、『村娘と王女』(アメリカ)は主人公がレズビアンで、お姫さまは金髪碧眼の白い肌というイメージがこんなにも植え付けられているのだと思い知らされ、驚愕しました。面白い絵本でした。

 

お父さんと子どもだけが登場する『あめだま』ペク・ヒナ作/
LGBTがテーマの絵本。既存の概念にとらわれず、お姫様の美しさが描かれている。『村娘と王女』ダニエル・ハーク、イザベル・ギャルーポ作、河村めぐみ訳

 

ジェンダーフリーを前面に出した本

『とびきりおいしいデザート(あすなろ書房)』は、300年前から現代まで伝わるおいしいデザートとそれを作る家族の姿を時代ごとに描いています。

奴隷が当たり前だった時代。家庭のお菓子を作るのは女性というのが当たり前だった時代。そして現代の場面では、お父さんが作る何気ない姿が出てきます。常識が変わっていくのが、一つのデザートを軸に語られているのが興味深いです。

『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート』エミリー・ジェンキンス作、 ソフィー・ブラッコール絵、横山 和江訳

 

『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』は、女の子がズボンをはくという今では当たり前のことが常識ではなかった時代。

その常識に「おかしい」と気づき、医学の道で活躍した女性の話を描いています。150年前の本当の話です。ズボンを女性がはいたら、逮捕されるなんて、信じられますか?

 

 

 

ブックハウスカフェでは、おもに未就学児から楽しめる絵本と、大人でも楽しめる児童書・児童文学を扱っています。

絵本はまず子どもの時に読み、親になり自分の子どもに読むというケースが多く、途中、成長に従って一度離れる時期があるのですが、中学生の多感な時期に絵本を読むというのも、非常によいと思います。

詩的な表現は癒しを呼びますし、人生経験を積むにつれ、小さい時には見えなかった景色に目がいくようになる面白さを発見できるからです。

暴力を振るわれても、「あなたは悪くないんだよ」と言ってあげたい

児童虐待については、「起こった後の手立て」ばかりで「起こる前の手立て」が不足している、という声もありますよね。

今回、「虐待」というテーマで絵本を聞かれた時、最初に思い浮かんだのが『パパと怒り鬼』でした。鬼になったパパが印象的な本です。この絵本もノルウェー発でした。かなりインパクトのある出版でした。

『パパと怒り鬼-話してごらん、だれかに-』グロー・ダーレ作、大島 かおり 青木 順子訳

児童虐待は、「(暴力を振るわれた)あなたは、ありのままでいいんだよ。暴力を振るわれても悪いのは暴力をふるう人で、あなたは悪くないんだよ。違和感を感じたら、嫌って言っていいんだよ。親に言わなくてもいいし、他の大人に助けを求めることも大切だよ、暴力は愛情じゃない、犯罪だよ」と伝えてあげたいです。

DVだけでなく、犯罪と社会問題とは密接に関わっていて、加害者もまた何かの問題を抱えていることが多く、周りの大人が早く気づき被害者へ(加害者へも)手を差し伸べることが必要だと本の中でも語られています。

 

絵本を読む子どもたちへメッセージ

子どもたちには、たくさんの物語を楽しんでほしいです。数だけでなく、ジャンルもテーマもいろいろな物語を。時間をかけて物語をかみ砕く力を蓄えてほしいです。

 

ブックハウスカフェ

【住所】〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F

【営業時間】11:00~18:00年中無休(年末年始を除く)

「神保町駅」A1出口徒歩1分

(編集部より)

家族の定義は、それぞれの人の意識の中に存在し、構成する人も形も時とともに変化していきます。茅野店長からは今回ご紹介した絵本の他にも、様々な絵本を見せていただき、大変勉強になりました。
固定的な家族というイメージにとらわれず、家族や生き方の多様性を知る。自分の考えを相対化する。多様性のある生活、またそれに対する考え方も多様であること。
多様な家族について絵本から学ぶ際の参考にしていただければと思います。

※弊社の中学校家庭分野の教科書は、ジェンダーや児童虐待などに配慮した誌面作りを心掛けています。ぜひ、一度ご覧ください。

教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より

 

教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より

取材・文/教育図書編集部 武石暁子

【関連情報】

教育図書・中学校家庭分野教科書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』の情報は下記よりご覧いただけます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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