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家庭科 NEWS

デジタルを活用した家庭科授業実践〈家庭科55デジタル+〉

教育のデジタル化が提唱され、デジタル端末の導入や通信環境の整備が急速に進められています。教育現場でも英語や理系科目を中心にデジタル教材を用いた授業が浸透してきています。

しかし家庭科のような実習授業が中心の科目でどのようにデジタルを使いこなすか、まだ使いやすい教材や授業実践は少ないように思われます。

本記事ではこの秋に発売され、来年度から使用される高校家庭科資料集「家庭科55デジタル+」を試験的に使った授業実践をレポートします。

家庭科におけるデジタル教育の可能性

家庭科授業のデジタル化というとデジタル教科書を使ったり、インターネットで「調べ学習」をしたりということが多いかと思われます。しかし家庭科の面白さは、知識を覚えることよりも、体験する楽しさやそこから得られる発見にあるはずです。

家庭科のデジタル化の可能性はこの「体験」を簡便にバーチャルで授業に導入できることにあるのではないか、「家庭科55デジタル+」はそのような考えにもとづいて作られています。

たとえば保育の授業を例にとってみましょう。一般に妊娠や保育についての授業は必要な知識を習得させるため、どうしても講義型の座学が中心になりがちです。しかし実際に子育てを経験した人ならわかるかと思いますが、授業で教わった通りに子どもは行動してくれるわけではなく常に想定外のことが起こります。つまり正解がないのが保育の大変さであり、同時に面白さでもあります。実際にこれを体験するとなる保育の現場に生徒を連れ出す必要があり、そうそう容易にできる授業ではありません。

「家庭科55デジタル+」ではスマホのチャット機能を応用したデジタルコンテンツ「イヤイヤ期にはどう接するか?」という教材を保育ページから読み込んで活用できるよう工夫しています。

こちらは3歳児と父親の忙しい朝のやりとりをチャットボット形式で体験できるコンテンツです。生徒は父親の立場に立ち、泣きわめく息子をどのようになだめすかし、保育園に送り届け、自分の出社時間に間に合わせるかをゲーム感覚で体験します。

以下では、このコンテンツを使用した授業実践事例をレポートします。

本とデジタルコンテンツを融合させたハイブリッド授業

福岡県立福岡中央高等学校の家庭科・徳重雄平先生にご協力いただきました。
授業で使用した「家庭科55デジタル+」のページとデジタルコンテンツは以下の通りです。

p.22-23「子どもはどのように発達する?」

 

ページの右上のQRコードから使えるコンテンツ「イヤイヤ期にどう接する?」

※画像をクリックしてコンテンツを体験できます

●指導計画

保育 (総時間数:8時間)
①子どもの発達(2時間) 1時 子どもの成長の特徴、体の発達
2時 子どもの心の発達 ★本授業
②子どもの生活(2時間)
③保育実習(2時間)
④現代の子育ての課題(2時間)

 

●本時の目標

評価規準例
知識・技能 子どもの心身や発達の特徴について理解する。発達の仕方には個人差があることを知る。子どもの発達の段階に応じた親の働きかけの重要性を知る。
思考・判断・表現 子どもとかかわる体験を通じて、子どもの心身の発達のために適切なかかわり方について考察する。★本授業
主体的に学習に取り組む態度 子どもや子育てに興味をもち、どうしたら子どもの心身の発達を促す関わりができるか主体的に考えながら、積極的に活動に参加する。

 

●本時の授業展開例

導入5分
展開25分 教科書内容の解説
・子どもの心の発達(愛着形成や社会性の獲得、言語機能、情緒)の学習
・イヤイヤ期の子どもの写真や動画を視聴する
「家庭科55 デジタル+」のP.22~23 を読む
・各年齢の子どもの発達の特徴などについて生徒同士で感想を話し合う
発展10分 デジタルコンテンツ「イヤイヤ期の子どもにどうかかわる?」を体験
まとめ10分 デジタルコンテンツの結果画面で感想や考えを入力、教員に送信

先生の感想

「生徒たちはとても楽しそうに、周囲の級友と考えながら自身だったらどうするかを選択できていました。デジタルコンテンツは短時間で実施できるため、授業内でのメリハリも付けられ大変有効だったと思います。教科書と資料集では「知識・技能」を習得し、デジタルでは「思考・ 判断・表現」を養うという展開ができました。
子どもを好きだという生徒は多く、その理由は「可愛い」が圧倒的多数です。しかし、一方で嫌 いという生徒の意見として「思うように動いてくれない」「何をするか分からない」という声もあります。デジタルコンテンツの活用を通じて、そのような多様な意見を集約し、子育ての面白さと難しさを共有できたのではないかと思います」

福岡県立福岡中央高等学校・徳重雄平先生

生徒の感想

デジタルコンテンツでは結果を確認したあと、名前と感想を書き込める欄を設けてあります。「ダウンロードする」をクリックすると定型のPDF書類となり、生徒の端末に保存されます。学校で使用しているファイル共有システムを使って回収することができます。

以下、授業を受けた生徒の感想をご紹介しましょう。
(❶は「子どものイヤイヤ行動への接し方を体験して、大変だと思ったことなどの感想を書こう」、❷は「将来自分が子どもとかかわるとしたら、どんな接し方をしたい?」という問いに対する回答です)

❶時間がないときに限って、反抗してくるのは大変だと思うけど、そのあと子どもが満足いかずに泣き出したら、もっと大変になると思いました。だから、急いでいてもやらせてあげることで、反抗を止められるし、子どもの笑顔もみられて、一石二鳥だと思いました!
❷納得いくように説明してあげたりして、叱ったりすることはないようにしたい。でも、本当にしちゃいけないことをしていたら、ちゃんと叱ってダメなことはダメだと分からせることも必要だと思った。

 

❶イヤイヤ期だからといって甘やかしすぎるとこれからの生活にひびくと思うし、むずかしいなと思いました。なるべく子どもの気にさわらないような接し方をしながら、ダメなことはダメと怒るべきだと思います。
❷同じようなテンションと気持ちで接したいです。子どもの気持ちに寄り添って、メリハリをつけてかかわっていきたいです。

 

❶自分もイライラするし、子どももイライラするから、とても心の負担が大きいと思った。また、子どもがどうしたいのか想像して話さないと、自分の言いたいことが伝わらないなと思った。
❷なるべく優しく接してあげたい。また、あまり怒らせないようにし、笑ってくれる方が多いようにしたい。そのためにも、自分が常に笑顔で接してあげたい。

 

❶子どものことばかりにかまっていられないのに、全然言うことを聞いてくれず、こっちもイライラしました。世のお父さん、お母さんがすごいと実感できました。
❷自分のやらないといけないことと子どもへの対応とでバランスを取ろうと思いました。

 

ちょっとのことでいろいろ言って泣いちゃうのが大変だと思いました。そんな時期があったけど、大切に育ててくれている家族に感謝しています。でも改めて、子どもが欲しいと思いました。久しぶりに小さい子のことについて体験できてよかったです。
時間が許す限り、何でもやらせてあげたいと思いました。言葉では伝わらなかったり、分かってくれないことが多いけど、実際にやらせてあげると、納得してくれるのではないかと思いました。

 

忙しいときにイヤイヤ行動をされたら自分もイライラしてしまうと思うので、自分一人で子育てをするのは大変だと思った。
常に子ども優先で考えられたらよいが、そうもいかないと思うので、心にゆとりを持てるようにしたい。怒るのではなく、諭すようにできればよいと思う。

編集者より

いかがでしょうか。家庭科におけるデジタル教育の可能性が垣間見えたのでないでしょうか。教科書や資料集を使った講義型授業だけでなく、デジタル教材を組み合わせることで主体的な学びへと発展させることができたように思います。

「家庭科55デジタル+」は、このようなコンテンツが65本、また調理動画など90本を収録しています。単なる資料集の枠を越え、本とデジタルを融合させたハイブリッドな授業を提案しています。家庭科の新しい学びを模索している先生方にぜひおすすめの1冊となっています。


家庭科55デジタル+の詳細はこちら

価格 721円(本体655円)
AB版、オールカラー、208頁
商品コード番号:1047170

※お求め、お問い合わせは弊社までご連絡ください。(一般販売はしておりません)

家庭科55デジタル+のWEBサイトはこちら

※デジタルコンテンツは現在開発中につき、不完全なものやご利用できないものもあります。